Q:石壁を溶かすのに必要なAcidの量ってどのくらい?


土星にお住まいのSho君からの質問です。本当はもう少し違った感じの質問だったんですが
話を分かりやすくするために勝手に変えました。まぁAcidと言うからには酸で溶かしてるんでしょうが
データブックVol.2にはちゃんとこれに関する説明がなされていて、「硫黄と硝酸を用い、その結果
出来た酸である」とのことです。これは早い話が硫酸です。硫酸なら何でも溶かせそうなイメージが
ありますよねー。石壁に関する記述は一切無いので分かりやすく大理石として考えましょう。
大理石は酸に弱いらしいですが、Acid(硫酸)で溶かすことが出来る以上は寧ろ大理石で出来ていると
言わざるを得ません。これが花崗岩だったりなんかしたら、いくら硫酸をかけても溶けないと思います。
大理石とは言わば石灰石のことです。一般的に、炭酸カルシウムを95%以上含んだ鉱物を石灰石と呼ぶんだ
そうです。オイオイそれは5%の不純物を含んだ炭酸カルシウムじゃないか。まぁいいか。
ここでは話を簡単にするために、大理石中の炭酸カルシウム含有率は100%と考えます。Let'sゆとり。

溶かすと言っても、塩を水に溶かすのとは本質的に異なってきます。大理石を硫酸に入れた(または
大理石に硫酸をかけた)ときに生じるのは「溶解」ではなく「化学反応」です。硫酸と大理石の
化学式さえ分かってれば化学反応式は連立方程式を解くくらい簡単です。

硫酸の化学式はH2SO4、大理石の化学式はCaCO3ですので、化学反応式は

CaCO3 + H2SO4 → CaSO4 + H2O + CO2

となることが予想されます。結果だけ書いちゃいましたけど、分からない人は読み飛ばして良いです。
それでこの化学反応式が先の質問と何か関係があるのかと言うと、大いに関係があります。この反応式は
「大理石の分子1つに対して硫酸の分子が1つあれば化学反応が生じる」ってことを言ってるわけです。
結果的に「大理石何gに対し、それを全部溶かすのに必要な硫酸の量は何g」と言うのが分かって来るんです。

元素周期表には必ず「原子量」って言う物理量が載ってます。これは何かっつうと、「その原子1molで
何gになりますよ」っつう値なんです。1molは何かって言うと6.02×1023個のことだと覚えてれば
良いです。気体なら22.4リットルです。例えば、炭素原子の原子量は12なので1mol(6.02×1023個)で
12gです。分子の1molの重さは化学式に含まれる原子の原子量を全部足すだけで求められますので、
それぞれの原子量(Ca:40、C:12、O:16、H:1、S:32)から

CaCO3:40+12+16×3=100
H2SO4:1×2+32+16×4=98

となります。大理石は1molで100g、硫酸は1molで98gです。先の反応式を見ての通り、大理石1molに対して
必要な硫酸は1molですから、硫酸が98gあれば大理石100gを溶かすことが出来ることになります。

(原子量だとかモルだとかの説明はWikipediaでも何でも見てもらえれば良いと思うんですが、 Wikipediaは(特に理学系の項目に関しては)
わざわざ理解しにくいように 難解に書かれてるような印象を受けます。あれはもう少し何とかならないものか)


1キャラ分の石壁の大きさを2m×2m×2mとすると体積は8m3です。大理石の比重を2.7とすると
重量は21600kgになります。くどいようですが、大理石100gに対して必要な硫酸は98gなので
21600×98÷100=21168となり、実に21tもの硫酸が必要になっちゃいます。体積は硫酸の比重を1.84
(ただしこれは濃度96%の場合)とすると11500リットルになります。すげー、キロリットルオーダーだ。

気付いた方もいると思いますが、先の化学反応式では水と二酸化炭素が発生します。これらも同様に
1molずつです。100gの大理石を硫酸で反応させると18gの水と44gの二酸化炭素が生じることになるので
部屋中に3888kgの水が流れ込み、9500kgの二酸化炭素が充満します。部屋の広さは7キャラ分平方ですから
ざっと14m×14mとすると196m2の広さの部屋となります。足元には2cmの水たまりが出来、
部屋には4750m3もの二酸化炭素が充満します。
仮に部屋の天井までの高さを5mとすると、部屋の容積は980m3。これに4750m3の二酸化炭素が
生じたら、室内の気圧は5.8気圧。死にはしないと思いますが、耳が痛くなったりするかも知れません。
と言うか窒息死。耳が痛いのを気にしてる場合じゃないです。


しかも大事なことを忘れてました。密室でAcidを使うと4方向の石壁が溶けます。つまり今までの計算の
4倍もの結果が出ることになります。必要なAcidの重さは85t、部屋の水たまりにはもはや足首まで漬かり、
二酸化炭素の量は19000m3。19もの部屋が二酸化炭素で充満されます。部屋が密室なら
室内は20気圧。人間の身体は100気圧まで耐えられるらしいと言う話ですが、これは徐々に慣らしていった
場合の話です。身体に甚大な被害を被ること間違いありません。まぁその前に窒息死。
Acidには「十分な換気を行い、広い場所で使用すること」の注意書きが必要と思われます。



さて、今までの話はあくまで「全ての化学反応が最後まで進行する」と言うのが大前提でした。
つまり21tの硫酸で1キャラ分の石壁を完全に溶かすことが出来ると言う前提条件なんですが、実は硫酸で
大理石(石灰石)を溶かすのは結構大変です。と言うのも、反応中に生じる硫酸カルシウム(CaSO4)が
大理石の表面を覆ってしまい、そこで反応がストップしてしまうためです。アルミニウムの酸化皮膜と同じです。
大理石を粉々に砕いてから硫酸をかければ、反応は最後まで進行すると思われます。が、それが出来るなら
最初から壁を粉々にして進めば良いと思われます。Acid要らねえよ。すなわち、表面の硫酸カルシウムを除去
しながらAcidをかけていくと言う地道な作業が必要です。Mattockがタワー内で使えないんだから仕方ありません。
素直に塩酸を使いましょう。塩酸で大理石を溶かした場合は

CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2

Clの原子量は35なので、大理石100gに対して74gの塩酸が必要になります。なんだ硫酸より少なくて済むじゃないか
なんて思うのは早計。濃度100%の塩酸は塩酸ではなく塩化水素と言います。すなわち気体。持ち歩くには
水溶液にする必要があります。濃度40%とすると185gの塩酸が必要です。硫酸の約2倍の量を持ち歩かなくては
なりません。それでも硫酸よりも大理石が溶かしやすいと言うだけで、発生する水や二酸化炭素の量は
全く同じです。何かもうドラスレ探さなくてもガルシスのいるタワーに入ってガンガンAcid使えばそのうち
死ぬんじゃないかとか、85tのAcidを255個まで持てる主人公なら指先1つでガルシス倒せるんじゃないかとか
なんか色々と収集つかなくなる予感がするので今回はこれまで。